「お屋敷の庭がとても美しかったので、是非ご案内いただきたいな、と思いまして」


 エルベアトはそう言って、はにかむ様に笑う。
 いくら身体が弱いキーテでも、その位は可能だ。はい、と口を開きかけたその時、デルミーラが彼女の前に躍り出た。


「大変申し訳ございませんが、妹は身体が弱く、長時間外を歩けませんの。わたくしが代わりにご案内をさせていただきますわ」


 大輪の華の如く、デルミーラが満面の笑みを浮かべる。


「姉さま、だけど私、そのぐらいなら……」

「ダメよ。わたくしはあなたのことが心配なの。
それに、もしも昨日みたいに気分が悪くなったら? エルベアト様にご迷惑をお掛けしてしまうでしょう? ……ほら、顔色もまだあまり良くないし、あなたは部屋に戻って休んだ方が良いわ」


 至極心配そうな声音。侍女達が『デルミーラ様はなんてお優しいの』と瞳を輝かせる。


「でしたら俺は、これで失礼します」


 そう言ってエルベアトが立ち上がる。デルミーラが大きく目を見開いた。


「まぁ……そんな、まだ何のおもてなしも出来ていませんのに」

「おもてなしなどと、お気になさらず。見送りも結構ですから。
それではキーテ嬢、お大事に」


 最後にそう言い残し、エルベアトは颯爽と部屋を後にした。