「ご心配をお掛けして申し訳ございません。この通り、ピンピンしています」


 言葉の通り、今日の体調は悪くはなかった。
 元々、生まれついて身体が弱いわけではない。いつ頃からか――――恐らくは病気で母を亡くした頃から、徐々に徐々に悪くなってきた。

 特に、大きな行事に合わせて体調を崩すことが多く、その度にデルミーラに迷惑を掛けている。そんな状態が続いているため、ここ数年は外出を控えていたのだが、夜会や外の世界への憧れは強い。抗うことが出来なかった。


「良かった。安心したよ」


 エルベアトがそう言って、身を乗り出す。普段とは異なる心臓の騒めきを覚え、キーテは居心地悪そうに身動ぎをした。


「キーテ嬢、良かったら……」
「失礼いたします」


 ノックから数秒、デルミーラが応接室に現れる。後にはティーセットを携えた侍女達が続いた。


「ご挨拶が遅くなって申し訳ございません。エルベアト様、昨夜はありがとうございました」


 デルミーラが美しく微笑む。エルベアトは穏やかに微笑み、こちらこそ、と小さく頭を下げた。


「お茶を準備しましたの。宜しければ召し上がっていってください」


 ティーポットから温かな湯気が立ち込める。けれどエルベアトは、小さく首を横に振った。


「いえ、俺はお茶は結構です。
それよりキーテ嬢、良ければ俺と、外を歩きませんか?」

「え……?」


 思わぬ申し出に、キーテは目を丸くする。