「本当にごめんなさい、姉さま」


 馬車に揺られながら、キーテは小さく息を吐く。


(もしも私が付いて行かなかったなら……)


 今頃デルミーラはエルベアトや他の男性と親密になれていたかもしれない。元々、彼女の元には複数の縁談が舞い込んでいたのだし、あとはキッカケとタイミングの問題だった。

 それなのに、キーテが全てを台無しにしてしまった。
 そう思うと、自分が情けなくて堪らなくなる。


「何を言っているの、キーテ。気にしないで? たった二人きりの姉妹でしょう?」


 けれどデルミーラは、そう言って優しく笑ってくれる。それだけがキーテにとって救いだった。


***


 翌日のこと。
 応接室に呼び出されたキーテは、思わぬ出来事に目を丸くした。


「こんにちは、キーテ嬢」


 ソファに腰掛けニコリと微笑む男性は、昨夜彼女に声を掛けてくれた、エルベアトその人だった。昨夜とは異なり、白と濃紺のコントラストが美しい騎士装束を身に纏っている。均整の取れた体型が、際立って見えた。


「良かった。今日は顔色が良いね。安心したよ」


 そう言ってエルベアトは目尻を下げる。訳もなく、キーテの頬が熱くなった。


「あ、あの……エルベアト様がどうしてここに?」

「君のことが心配だったんだ。フラフラしていたし、あの状態で馬車に乗るのは辛かったんじゃないかなって。本当は無理にでも休んでもらうべきだったのに……大丈夫だった?」


 エルベアトは律儀な人らしい。ほんの少し関わっただけのキーテの様子を見に、わざわざ屋敷まで会いに来てくれたのだ。