◇◆◇十六歳◇◆◇

 しかし、現実はそう甘くなかった。
 待ちに待った再会。
 折角頑張って政略結婚の理由を用意して、きちんと努力もしてきたのに、ソーちゃんの反応はあまりにも薄い。

 『そっか』って……そっかってさぁ!
 まあ、そんな塩対応もソーちゃんらしくて好きなんだけど。

 その時だった。


「ソルリヴァイ様!」


 愛らしい令嬢の声音に振り返る。
 見れば、わたしが居るガゼボから少し離れた所に、ソーちゃんと数人の令嬢が居た。

 公爵令息であり、まだ婚約者の居ないソーちゃんはモテモテで。中には、わたしとは別口の幼馴染なんかもいるみたいだから、戦々恐々としてしまう。


(嫌だな)


 ソーちゃんが他の子と一緒に居る所を見たくない。
 他の子がソーちゃんと結婚しちゃうなんて、考えたくもない。

 これまでは二人きりで会うことが多かったから、こんな想いに駆られることはなかった。頑張ったらいつかは想いが届いて、ソーちゃんと結婚できるんじゃないかと思っていたのだけど。


「驚いた。君もまだアイツとの結婚を諦めてなかったんだ」


 揶揄するような声音。
 振り向けば、想像した通りの人がわたしのことを見つめていた。


「アルバート殿下。ご無沙汰しております」

「うん、久しぶりだね。ミラ」


 ガゼボの向かいの席に腰掛け、殿下はゆっくりと目を細める。


「ところで『まだ』って……どうして殿下は、わたしがソーちゃんとの結婚を目指しているとご存じなんですか?」

「どうしてって……君がソルリヴァイに政略結婚の提案をしていた時、僕もその場に居たんだけどな」

「えぇ?」


 そうだっけ? 正直、全く覚えていない。
 だけど、よくよく考えたら、いくら幼くとも男女を二人きりにはしないかもしれない。

 それにしても、アルバート殿下か……一体どのタイミングで居たんだろう?
 頑張って記憶を辿ってみても、ちっとも思い出せそうになかった。