「何とか言ったらどうなのよ!」


 異母姉さまはそう言ってわたしのことを睨みつける。
 わたしは殿下の腕に添えていた手を下ろし、彼の前にゆっくりと頭を垂れた。


「異母姉さまの言う通りでございます。わたしはあなたの妃に相応しくありません。どうか、わたし達の婚約を――――――」


 破棄してください――――そう言おうとした。

 だけど、言葉が上手く出てこない。何度口を開いても、それは音になってはくれなかった。


(わたし……わたしは…………)

「僕と結婚したい。
だけど、僕のことは殺したくない――――そうだよね、ローラ」


 その時、アイザック殿下はそう言ってわたしの手を握った。ギュッと固く握られた手のひらから、殿下の温かさが感じられる。わたしは思わず息を呑んだ。


「――――どうしてそのことを?」


 こんなこと、誰にも打ち明けたことは無い。今回のことで協力を依頼した男性たちにだって、肝心なことは何一つ打ち明けてはいなかった。


「王家の仕事の一つに、反乱因子の監視というものがあってね? 君の母親とローラのことは、出会う前から既に知っていたんだ」


 その瞬間、わたしは驚きに目を見開いた。


「じゃあ……初めからわたしを監視するために?」


 いつもニコニコと笑っているから、不穏とは無関係の世界で生きているように見えるから、彼がわたしのことを初めから知っていただなんて、とてもじゃないけど信じられない。


「わたしに一目惚れしたっていうのも嘘だったんですね……!」


 言いながら涙がポロポロと零れ落ちる。
 初めからこの婚約に裏があることなんて分かり切って居た筈なのに、わたしは馬鹿だ。大馬鹿だ。本当に救いようがない。


「ローラ」


 そう言って殿下はわたしのことを抱き締めた。殿下の腕の中はいつもとちっとも変わらず温かくて、わたしは涙が止まらなくなる。


「僕がローラに伝えた言葉に、嘘偽りは一つもないよ?」

「え……?」