「異母姉さま……」


 あれから異母姉は、わたしの企みには関わらせないようにしていた。関わらせたところで碌なことにならない。彼女を傷つけるだけだと知っているから。


「どうしてそんな風に思うんだい?」


 殿下は穏やかに目を細め、異母姉さまのことを見つめている。
 異母姉さまは身体を震わせつつ、ゆっくりと大きく深呼吸をしてからこちらへと向き直った。


「異母妹は殿下の他に、情を通わせている方が複数人いるんです。どれも平民の、つまらない男ばかりですわ!」


 そう言って異母姉さまは殿下へ数枚の紙を手渡す。それは、わたしの行動を数か月分事細かに書き記した報告書に加え、密通相手の姿絵、密会の場所や頻度が書き記されたものだった。


「……すごいね。良くぞこんなに」

「そうでしょう? 本当に……殿下の妃になろうというものが、愚かなことです! 実の妹だというのに、情けなくて堪りませんわ……。
ですから殿下、いい加減目を覚ましてくださいっ! その女は殿下に相応しくありません! 婚約は今すぐ破棄するべきです!」


 異母姉さまはそこまで一気に捲し立てると、真っ赤に染まった顔をわたしへと向けた。彼女の笑みからは、満足感と高揚感がうかがえる。


(思っていた形とは違うけれど)


 これで異母姉さまは満足できたのだろうか――――そう思うと、何とも言えないほろ苦さが胸に広がっていく。

 だけど、少なくともこれでわたしの望みは叶った。

 これでわたし達の婚約は破棄される。今度こそ、全くのお咎めなしという訳にはいくまい。

 どちらにせよ、わたしは母から死んだ方がマシだと思う仕打ちを受けるのだろうけど、そんなことは元々分かっていた。自分と殿下を天秤にかけて、わたしは殿下を選んだ――――ただそれだけのことだ。