「僕はすごく嬉しいよ」


 そう言ってアイザック殿下はわたしをそっと抱き寄せた。大きな手のひらがわたしの頭を優しく撫で、知らず心臓が小さく高鳴る。


(あっ……)


 だけどそれは、わたしだけじゃなかった。殿下の心臓もトクントクンとハッキリ、大きく刻まれているのが分かる。


「わたしも嬉しいです」

(……って、何を言っているの⁉)


 自分の発言が信じられず、わたしは思わず殿下からそっと顔を背ける。
 けれど、殿下がそれを許さなかった。殿下はわたしの顔をグイッとご自分の方に向けると、大きく目を見開き、それから嬉しそうに口の端を綻ばせる。


「どうしよう……。さっきよりもずっと嬉しくなった」


 まるで今にも泣き出しそうな表情で笑う殿下に、わたしは得も言われぬ感情に襲われる。

 その感情の名を、わたしはまだ知らない。

 憐みでもなく、侮蔑でもなく、思わず手を差し伸べたくなるような心の動き。


(早くこの人をわたしから解放してあげないと)


 そう思う理由が、彼と出会った頃からほんの少しだけ、変わりつつあった。