(信じるわけないじゃありませんか)


 こんな婚約、普通ならあり得ない。裏があるに決まっている。寧ろ信じられる人が居るなら教えて欲しい。
 言葉にせずとも想いは伝わるらしく、殿下はクスクス笑いながら、小さく首を傾げた。


「僕はずっと結婚相手を探していたんだ。そのことはローラも知っている?」

「ええ。異母姉のイザベラがその筆頭候補だと思っておりましたけど」


 初めて殿下にお会いしたのだって、異母姉さまがキッカケだった。

 新しく学園に入学してきたわたしを見つけた異母姉さまが嫌味を言うために近づいてきたその時、彼女と共にアイザック殿下が居た。そうして、脈略も無く唐突に投げ掛けられたのが、冒頭のセリフだったのである。


「そうだね。イザベラも含めて、僕には数人のお妃候補が居たんだ。どの人も美しく、素晴らしい人だけど、どうにも決めかねていてね。
だけど、ローラに出会って気づいた。君こそ、僕が求めていた運命の人なんだって」


 至極真面目な表情のアイザック殿下に、わたしは目を瞬かせる。


(いまどき運命の人って……)


 リアリストのわたしを相手に、この発言は結構きつい。本当はお腹を抱えて笑いたかったけど、必死になって我慢する。
 けれど、アイザック殿下はそんなわたしを余所に、穏やかに目を細めた。