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 その後わたしは、異母姉さまのアシストもあって、すぐにその場から撤退した。あんな荒唐無稽なこと、その場限りの冗談だろうと、そう高を括って。

 しかし、それから数日後。たくさんのプレゼントとともに、殿下から正式に求婚の手紙が届いてしまった。


(どうしよう……)


 血の気の引くような思いを胸に、わたしは届いたプレゼントの山を見つめる。


「よくやったわ、ローラ」


 その時、背後から冷ややかで苛烈な声音が響いた。


「お母様……」

「イザベラの側で情報を収集させるのが最善だと思っていたけれど、まさかあなた自身に妃の打診が来るなんてね」


 そう言って母は狂気に満ちた高笑いをする。


「やったわ……私の手で王家に仕返しが出来るのね! あなたが妃になれば、王家の人間を暗殺するのも容易いことだもの!」

「お母様、それは…………」

「やるのよ! 何のためにあなたを育ててきたと思っているの?」


 ギロリと血走った眼がこちらを睨みつけ、わたしは思わず口を噤む。


 母はかつて、この国に攻め入られ、滅ぼされた国の王女だった。

 王女と言っても妾の子だったので、公には存在を認められておらず、辛くも粛清を逃れ、生きのびることが出来た。しかし、彼女の恨みは凄まじく、この国の王家を激しく憎んでいる。
 だからこそ、名前と身分を偽ってこの国の有力者である父に近づき、かつての仲間達と共に復讐の機会をうかがっているのだ。