「うーーん、だけど貴族以外の血が卑しいなんて僕には思えないし、半分は君の父親――――伯爵の血が流れているんだろう?」


 けれど、アイザック殿下はそう言って小さく首を傾げる。その瞬間、異母姉さまの頬がカッと紅く染まった。


「僕は王位を継ぐ予定もないし、その内爵位を貰って臣下に下る予定だ。『妃』って変に畏まる必要も無いし、君の妹、礼儀作法も教養も申し分ないように見えるけど」

(いやいや、たった一目見ただけでそんなこと分かる筈無いだろうに……)


 心の中でツッコミを入れつつ、わたしは唇をすぼませる。

 とはいえ、彼の言う通り、わたしには貴族の子女となんら遜色のない教育が施されている。大富豪の父が惜しみなくお金を注いでくれたので、そんじょそこらの貴族よりも余程良い教育を受けているのだ。だけど、そういうことは見た目でわかるものじゃない。

 大体、一国の妃を選ぼうというのに、平民が街で声を掛けるような気軽さで良い筈がない。それなのに、一体なにがどうして、こんなことになったのか――――。


「一目惚れなんだ」


 まるでわたしの疑問に応えるかのように、アイザック殿下はそう言って微笑んだ。彼はわたしの手を握り、ウットリと瞳を細める。


(いやいや、あり得ないでしょ)


 わたしは呆然と殿下を見上げつつ、心の中でため息を吐いた。