ウィリアムの問いに、バッカスは切なげに囁く。誰かに会えないことを、これほどまでに寂しいと思うのは初めてだった。ジュノーの笑顔が見たい。誰よりも喜ばせたい――――幸せにしたいとそう思う。

 よくよく考えれば、シンシアを鬱陶しく思うようになったのは、ジュノーに出会って以降だ。それまでは、いくら苦言を呈されたとしても、他の言い寄ってくる女性たちと同列に愛情を注いできた。けれど今は、彼女に対して感情を向けることを勿体なく感じる。

 それよりなにより、今はジュノー以外の女性と関わりたいとは思わない。それは常に女性に囲まれて生きてきたバッカスにとって、大きな驚きだった。


「バッカス、あの女に関わるのはもう止めろ」


 けれどその時、ウィリアムはそんなことを言った。真剣な瞳に声音。バッカスは流れ落ちる汗を拭いつつ、眉間に皺を寄せる。


「ジュノーと? そんなの、無理だ」


 バッカスは肩で息をしながら、キッパリとそう言い返した。ウィリアムの眼差しが先程よりも鋭くなる。ガンガン鳴り響く頭を抱えつつ、バッカスは盛大なため息を吐いた。


(ウィリアムまで俺を批判するのか)


 そう思うと、唯一無二の親友の存在すら煩わしく感じられる。バッカスは負けじとウィリアムを睨み返した。