「あぁ、ウィリアムか」


 バッカスは振り向き、ウィリアムの姿を捉えると、ホッと安堵のため息を吐く。
 幼馴染で親友のウィリアムは、常に女性から言い寄られているバッカスに嫉妬をすることのない、数少ない人間だった。それは、彼自身がバッカスに引けを取らないほどの美男子だと言うことが一つ。もう一つは、彼が公爵家の跡取り息子であり、確固たる自信に満ち溢れているからだろうとバッカスは思っていた。


「何だか顔色が悪いぞ。大丈夫か?」


 ウィリアムはバッカスに腰掛けるよう勧めながら、軽く眉を顰める。ウィリアムの言う通り、先程よりも体調が悪化しているのは間違いなかった。バッカスの額から冷や汗が流れ落ちる。背筋に悪寒が走り、心臓がいつもとは違うペースでドクン、ドクンと跳ねているのが分かった。


「分からない。最近体調が良くないんだ」


 テーブルに肘を突き、バッカスは大きくゆっくりと息を吐く。けれど、改善の兆しはちっともなかった。


「今日はあの令嬢――――ジュノーはいないのか?」

「……あぁ。なんでも用事があるらしい。出会ってからずっと、毎日会っていたのに」