◇◆◇十二歳◇◆◇

 翌年、わたしは更なる切り札を手に、ソーちゃんに挑んだ。


『ソーちゃん! わたしと結婚したら、持参金がたんまり貰えるんだって!』


 これでどうだ!という気持ちで身を乗り出すと、ソーちゃんは目元をやわらげ、ふっと声を出して笑った。


『それ、誰に教わったの?』

『家庭教師よ。結婚の決め手になるのは何だと思う?って尋ねてみたら、そう教えてくれたんだ』


 そもそも、政略結婚の形はいくつかある。
 一つ目は、家名はあるけどお金のない高位貴族に資金援助を申し出て、地位や名誉をお金で買うパターン。
 二つ目は、ビジネスパートナーなんかが繋がりを強固にするために行う形の結婚。
 三つ目は、争いや戦を回避するために、人質を差し出すというもの。
 等々。

 わたしとソーちゃんの場合、二番目の結婚の形が一番近い。だけど、別に理由なんて一つじゃなくても良いわけで。お金があることは良いことだし、それでソーちゃん(のお父様)の領地が潤えばわたしも嬉しい。


『ミラ。うち、お金には困ってないよ? 寧ろ、結婚したらミラに今よりも贅沢をさせてあげられると思うけど』

『分かってるよ。だけど、それが一番理由としてしっくりくると思ったんだもの!』


 そりゃあ、ソーちゃんは王族の一員で、お金なんて有り余るぐらい持っているんだろうけど、わたしと結婚するメリットを提示しろって言われたらさ。客観的にも『これだ!』って思える理由の方が良いじゃない? お金(=数字)って主観が入らない分、比べやすいし。


『もっと他にないの? 俺達が結婚すべきだっていう理由』

『うーーん……』


 正直、これならイケる! って思っていたから、他の理由は考えてない。しょんぼり肩を落としたら、ソーちゃんは小さく笑いながらポンポンと頭を撫でてくれた。


『思いついたら教えて』


 ぶっきら棒な声音。おまけにいつも通りの無表情だけど、わたしにとっては十分で。


『うん! 頑張って考えてくる!』


 十二歳のわたしは、満面の笑みで翌年のリベンジを誓った。