「大体、このようなお祝いの場で婚約破棄を言い渡すなんて非常識すぎます。数年前から伝統行事のようになっていたことは存じ上げていましたが、まさか今年も断行なさる殿方がいらっしゃるなんて思いませんでしたわ。キトリ様に対してあまりに失礼ですし、パーティーを妨げられた皆さまの迷惑です。……それに、わたくしたちの同級生には王太子殿下もいらっしゃいますのよ?」


 そう言ってネリーンはチラリと俺の方を見る。


(あっ、俺ってちゃんとこの子に認識されてたんだ)


 苦笑いを浮かべながら、小さく手を振ると、ネリーンはふふ、と含み笑いを浮かべた。


「あなたの愚行を事前に防げなかったのは、わたくしの落ち度でもありますけど……さすがに想像もできませんでしたわ。王太子殿下がいらっしゃるのに、卒業パーティーを我がもの顔で婚約破棄のために使う人間がいるなんて、ね」


 その途端、俺の背後でビクリと身体を震わせた人間が数名いた。
 彼等はバツの悪そうな表情をして、隣に立つ令嬢からそっと顔を背けている。


(えぇーーーー、マジか。こいつらもここで婚約破棄するつもりだったの?)


 脳足りん連中がこんなにもいたのかと思うと、呆れてモノも言えない。俺の視線にビビッたらしく、彼等は逃げるようにして会場を抜け出した。


「まさかご自分が、この学園の頂点にでも立っているおつもりなのでしょうか?普通はできませんよね。王太子殿下の御前で、こんなバカな真似。とんだ不敬だと、そう思いませんこと?」

「いっ……いや、その…………!そんなつもりでは!」


 アロンソは顔を真っ青にしながら、俺とネリーンを交互に見ている。ようやく自分が何をやらかしたのか、自覚したらしい。