「――――わたくしは、悲しかったです」

「え?」


 アルバートは目を丸くして、わたくしのことを凝視している。あの日の――――婚約破棄の日の記憶が蘇り、わたくしの胸を激しく焼いた。


「わたくしは、あなたのことが好きでした。すごくすごく、大好きでした。一生、あなたのことを好きでいるって思っていた。でも、あなたはそうじゃなかった。他の令嬢と結婚すると……婚約破棄を言い出されて、とても悲しかった! 苦しかった! だけど、自分の気持ちを言葉にすることもできなくて……」


 言葉と一緒に、涙がポロポロと零れ落ちた。
 アルバートはオロオロと手を彷徨わせ、わたくしのことを呆然と見つめている。こんな風にわたくしが感情を吐露するとは、想像もしていなかったのだろう。ようやくわたくしは、一番アルバートに伝えたかったことを口にすることが出来た。


「エリオットだけが、わたくしの気持ちを受け止めてくれたんです! いつも、口下手のわたくしの言葉を拾い上げて、一緒に悲しんでくれた! 苦しんでくれた! 無理に笑わなくても良いって言ってくれて……それで…………」

「クリス」


 気づけば、泣きそうな顔をして笑うエリオットが、わたくしの隣にいた。式典の最中だというのに大声を上げたわたくしは注目の的で。思わず頬が真っ赤に染まる。


「ごめんなさい、わたくし……」

「うん。行こう」


 エリオットは小さく笑いながら、わたくしの手を引いた。ガヤガヤと騒ぎ立てる父兄たちに、唖然とした表情のアルバート。わたくしの表情は、混乱と動揺で、とんでもないことになっていた。