それから数日後。わたくしたちは卒業の日を迎えた。

 あれからわたくしは、エリオットに会えていない。家の手伝いのために学園を休みがちな上、会いに行ったところで取り次いでもらえないのだ。


(けれど、今日の卒業式には絶対出席するはず)


 案の定、エリオットの姿を見つけたわたくしは、ほっと胸を撫でおろした。


「いよいよ卒業だね」


 わたくしの隣で、晴れやかな笑みを浮かべたアルバートがそんなことを口にする。ふと目を遣ると、少し離れた所で、彼の恋人だったミリーが顔をクシャクシャに歪めていた。


「……ええ、そうね」

「君と過ごした学園生活は良い思い出ばかりだ。楽しかったなぁ」


 アルバートはそう言って、わたくしの手を握った。


(良いことばかり……? 楽しかった……?)


 本当に、そうだろうか。

 確かにわたくしは、この学園生活――――いや、もっと長い間、アルバートに恋をしていた。ただひたすらに彼を好きで、それを楽しいと思っていたことも間違いない。

 けれど、わたくしの学園生活は、アルバートに婚約破棄をされてから――――エリオットの隣で始まった。

 たったの数か月間だったけれど、彼がいたからわたくしは笑えたし、自分の気持ちを言葉にすることができるようになった。エリオットがいなかったら、わたくしは今も、『感情の欠落したクリスティーヌ』だった筈で、アルバートがこうして振り向くことも無かった。