けれど、何故だろう。
 胸の辺りがモヤモヤしている。

 きっと、婚約を破棄される前のわたくしが、アルバートにこんな風に抱き締められていたら、心の中はお祭り状態だっただろう。嬉しくて堪らなかっただろう。

 それなのに、今のわたくしには、この状況を素直に喜べなかった。

 アルバートの後姿を見送りながら、わたくしは小さくため息を吐く。


「良かったじゃん」


 その時、慣れ親しんだ声が聞こえて、わたくしは後を振り返った。


「エリオット」

「正直、ここまで上手くいくと思ってなかったよ」


 エリオットはそう言って、朗らかな笑顔を浮かべた。けれど、何故だろう。それが今にも泣き出しそうな表情に見えて、わたくしは何やら胸が苦しくなる。


「クリスの想いが伝わって、俺も嬉しい」


 気づけばわたくしの瞳からは涙が流れ落ちていた。肩を震わせ眉間に皺を寄せたわたくしの背中を、エリオットがポンポンと撫でてくれる。


「あいつと婚約するんじゃ、俺は側にはいてやれないけど……もう大丈夫だろ?」


 エリオットの言葉に、わたくしは大きく首を横に振る。


(全然、大丈夫じゃない)


 けれど、エリオットは穏やかに目を細めると、最後にわたくしの頭を撫でて、そのままその場を立ち去ってしまった。