「ヴァリー、そろそろ良いかい?」


 その時、恐る恐るといった様子でアベルがそっと顔を出す。


「兄様! もちろん、お待たせいたしました」


 ヴァレリアはゆっくりと立ち上がりつつ、満面の笑みを浮かべる。そのまま兄に席を譲ると、軽やかに庭園を後にした。


「――――あんなに嬉しそうなヴァリーは初めて見るな」

「そうなのですか?」

「うん。ルル様が姉になることが余程嬉しいらしい」


 アベルはそう言って複雑な表情を浮かべつつ、ルルの手を握った。


「俺としてはヴァリーにルル様を取られそうで、何だか不安だよ」

「まぁ……!」


 ほんのりと頬を紅く染めたアベルを見つめながら、ルルは嬉しそうに笑う。


「そうですわね。でしたらわたくしも……ブラコンからシスコンにジョブチェンジするのも、悪くない気がしてきましたわ」

「――――それは勘弁してほしい」


 二人は声を上げて笑いながら、初めての口付けを交わしたのだった。