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 それから、ルルとアベルの共闘関係が本格的にスタートした。
 カインとヴァレリアの様子を逐一手紙で報告しつつ、双方の家で行われるお茶会に乱入したり、デートに付き従ったりする。こっそりしていたのは最初の一回だけで、二回目以降は堂々と介入を行った。


「兄様、わたくしと腕を組みましょう?」


 そう言ってルルはいつものように、カインの左腕に抱き付く。


(こんな妹がいる家に嫁ぐなんて、嫌でしょう?)


 そんな想いを込めてルルは微笑む。すると、ヴァレリアは「では、私も兄と一緒に参りましょう」と穏やかに微笑んだ。


(なんか……負けた…………)


 その途端、ルルは大きな罪悪感と敗北感に苛まれた。




「本当に、大変よくできた妹様ですわね……」


 デートからの帰宅後、テーブルに突っ伏したルルがそう口にする。アベルと二人きりの反省会だ。会場は侯爵家にあるアベルの部屋で、恒例になってしまったが故、ルルはこの家の侍女たちともすっかり顔馴染みになっている。


(あんなに頑張って意地悪したのになぁ)


 けれどヴァレリアは、ちっとも意に介した様子がなかった。ルルがなにを言っても、なにをしても、ニコニコとそれを受け入れて『仲の良い兄妹ですわね』と、そう返すのだ。


「あぁ、俺もそう思うよ――――」


 言いながらアベルが盛大なため息を吐いた。彼もまたカインに仕掛けた嫌がらせが悉く不発のため、虚しさに打ちひしがれているのである。
 二人分のため息が綺麗なハーモニーを奏でる。侍女たちがクスクス笑いながら、二人のためにお茶を淹れた。ルルの好みに合わせたフレーバーティーで、甘い香りが部屋を優しく包み込む。


「ありがとう」


 ティーカップを受け取りながら、ルルはウットリと目を細める。ささくれたった心が癒されるような、そんな心地がした。


「――――俺の妹も素晴らしいが……」


 アベルはテーブルに突っ伏した顔をほんの少しだけ上げて、そっとルルのことを見上げる。


「……? なんですの?」

「いや……なんでもない」


 そう言ってアベルは、そっと視線を逸らした。ルルが小さく首を傾げる。そんな二人の様子を、ヴァレリアが密かに覗いていた。