(なに、この人?)


 ルルは聞きながら、そっと首を傾げた。
 大抵の人間は、ルルが兄の自慢を始めると、苦笑いをするなり適当に相槌を打つなりする。形式上「すごいねぇ」と褒めてくれることも多い。だけど、アベルのように『自慢を自慢で』返す人は初めてだった。


「――――あなたの妹が素敵な人だってことは認めますけど、兄との結婚を認めたわけじゃございませんのよ」


 何となく思ったことを口にすると、アベルは「奇遇だな」とそう返した。


「俺もだ。俺も――――君の兄が素晴らしい人だということは一応認める。だが、可愛い可愛い俺のヴァレリアに、結婚はまだ早い。断固反対する」


 アベルの言葉にルルは瞳を輝かせた。

 カインの結婚話を聞いて以降、ルルの味方は誰一人として居なかった。父も母も『いい加減兄離れをしなさい』と言うばかりで、ルルの悲しみに寄り添ってすらくれなかった。当人であるカインすら『まぁ、いつかは結婚しないといけないしね』なんて言っていたというのに――――。


「ぶち壊そう」
「ぶち壊しましょう」


 どちらともなくそう口にし、二人はグッと握手を交わす。一つの共闘関係が今ここに誕生した。類まれなるシスコンと、これまた類まれなるブラコン。出会ってはいけない二人が出会ってしまったのである。