***


 ソーちゃんと出会ったのは、わたし達がまだ八歳の頃。
 お父様に連れられて、王宮で開かれた四大公爵家の会合に赴いたのがキッカケだ。

 貴族の子どもっていうのは、同年代との出会いが極端に少ない。周りは皆大人ばかり。お父様やお母様、侍女や執事たちは優しくしてくれるけど、自分と同じ目線で遊んでくれる人なんて皆無で。
 だからわたしは、ソーちゃんと出会えてとても嬉しかった。

 ソーちゃんは素っ気なかったけれど、わたしが側に居ることを許してくれて。二人で王宮内を探検したり、それぞれのタウンハウスで本を読んだり。
 途中から一つ年上のアルバート殿下も加わって、かけがえのない楽しい時間を過ごした。


 翌年も、わたし達は二人揃って王都に赴いた。
 数週間に渡る長い滞在期間。

 ソーちゃんはわたしに色んなことを教えてくれた。
 真剣な横顔が綺麗で、カッコよくて、勉強そっちのけで見惚れてしまう。

 それからソーちゃんは、わたしのどうでも良い話を、時折相槌を打ちながら静かに聞いてくれた。本当は鬱陶しかったのかもしれないけど、それでも隣に居ることを許してくれた。
 穏やかで優しい、温かな時間。


 領地に帰って以降も、考えるのはいつもソーちゃんのことばかり。

 どうやったらもっと一緒に居られるんだろう?
 ソーちゃんの隣に居られるだろう?

 そんな疑問を投げ掛けたら、お父様がこう答えた。


『すまなかった、ミラ! 父様としたことが、もっとミラとの時間を作るべきだったんだな! 母様とも話して、もっとおまえとの時間を作れるよう努力するよ』

『えぇ……? わたしが聞きたいのはそういうことじゃなくて……』


 残念。わたしが一緒に居たい相手はお父様じゃない。
 尋ね方を間違えたことに気づいたものの、今さら聞き返すのも面倒で。

 だけど、お父様の頓珍漢な返答の中にもヒントはあった。


(そっか! 結婚したら良いんだ!)


 お父様とお母様がわたしと一緒に居るのは、二人が結婚したからだもの。
 周囲から『貴族の結婚とは』『政略結婚とは』という話を聞かされ始めていた当時のわたしにとって、ソーちゃんとの結婚はあまりにも魅力的かつ単純明快な最適解だった。


 そんなわけで、翌年以降、わたしからソーちゃんへの『政略結婚プレゼンテーション』が始まったのである。