「……一応弁解させていただきますと、わたくしはここで、怪しいことを企んでいるわけではございません」

「――――ほぅ」

「兄のことが心配で心配で堪らなくて、こうして様子を見守りに来たのでございます」


 そう言ってルルは、一所懸命につま先立ちをする。見えないと分かっているのに、身体がどうしてもじっとしていられないのだ。


「俺も同じだ。妹のことが可愛くて可愛くて、心配で堪らなくて、こうして様子を見守りに来ている」


 アベルは口早にそう捲し立てる。そうしている間にも、何歩か後退ったり飛んだりしながら、窓の中が見えないか画策していた。


「――――見えないな」

「――――見えませんわね」


 二人は大層不服そうに唇を尖らせ、互いの顔を見つめた。


(この人はわたくしから兄様を奪う女性の兄……)


 そう思うと、ルルの心がモヤモヤしてくる。大きく息を吸いつつ、ルルはニヤリと口角を上げた。


「――――ねぇ、うちの兄様は素敵な方だったでしょう? あんなにカッコいい人、わたくし他に知りませんもの。太陽みたいに煌めくブロンドも、空色の瞳も、全部全部最高だし、本当に非の打ちどころがないのよ! おまけにすっごく優しいし」


 言いながらルルはふふん、と大きく胸を張る。


(他に気持ちのやり場がないんだもの……兄様の自慢ぐらいさせてもらわないと)


 つまり、マウントを取って溜飲を下げようと――――そういう魂胆である。


「――――それを言うなら俺のヴァレリアだ! あんなに素晴らしい子はこの世に二人といやしない! 可愛くて優しくて健気で、おまけに物凄く頭が良いんだ! 稀代の才女だって噂の王太子妃だって、ヴァレリアの前では霞んでしまうよ」


 ふふん、と鼻を鳴らし、アベルはルルと同じような笑みを浮かべた。