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 一週間後。顔合わせはルッシェルナ侯爵家で執り行われた。


「初めまして。どうぞ末永く、宜しくお願い致します」


 向かい側の席に座った令嬢がそう言って微笑む。カインの結婚相手であるヴァレリアだった。


(なんというか……わたくしとは全てが正反対の方ね)


 キチッと切りそろえられたブルネットに、理知的な印象の紫色の瞳。華美過ぎない青色のドレスを身に纏い、控えめに笑う。ヴァレリアはきっと、ルルのようにカインと外を走り回ったりしないし、父親に口答えもしない。お淑やかで穏やかな印象の、理想的な御令嬢だった。



(こんな子に兄様のお嫁さんが務まるのかしら)


 決して悪い子ではない――――寧ろ物凄い良縁だと一目でわかるのに、ルルの心はダークサイドに堕ちていて、良い言葉が一つも浮かんでこない。隣でカインがニコニコと笑っていることも、ルルの心を激しく抉った。


「では、あとはお若いお二人で」


 そんなセリフを封切りに、伯爵や侯爵が颯爽と立ち上がる。


(わたくしも若いのだけど)


 むすっと唇を尖らせ、その場から動こうとしないルルを「おまえも来なさい」と、伯爵が引き剥がすようにして部屋から連れ出した。