「だっ、だけど! 兄様にはわたくしがおりますわ! 結婚だなんて……」

「ルル――――まさかおまえ……本気でカインと結婚したいだなどと思っていたのか⁉」

「それは……当然違いますわ。ですが、結婚なんてまだ早すぎます。兄様は男性ですし、あと数年は独身を満喫して良いと思いますの」


 ルルは唇を尖らせながら、ほんのりと身を乗り出す。


「そんな悠長に構えていたら、おまえ達はずっと結婚しないだろう?」


 伯爵の決意は固かった。泣きそうな表情で詰め寄るルルに、険しい表情で応酬する。


「おまえだって、いつかは結婚してこの家を出るんだ。嫁入りにカインは連れていけない。いい加減兄離れをしろ。貴族の令嬢として誇り高く生きなければならない」


 父親の言葉に、ルルはそっと兄の方を振り返る。カインは困ったように笑いながら、ルルのことを見ていた。『仕方がないよ』とでも言いたげな、そんな表情だ。


「そんな……」


 ルルは、何だか突き放されたような心地だった。きっとカインも、自分と同じように『結婚に反対してくれる』と、そう思っていたのだ。


(ずっと一緒に居られると思っていたのに……)

「――――とにかく、顔合わせは一週間後。その時はルル。おまえも一緒にご挨拶を差し上げるのだぞ」


 伯爵の言葉に、ルルは「はい」と返事をしつつ、盛大なため息を吐いたのだった。