「ルルは世界一可愛いな」


 それがバルバトス家の兄妹、兄であるカインの口癖だった。何処に行くにも妹のルルを側に置き、片時も離しはしない。息を吸う様に妹への賛辞が飛び出し、初めて二人を見るものは、そのあまりの溺愛っぷりに言葉を失う有様である。


「兄様こそ、世界で一番素敵ですわ」


 そして、その妹であるルルもまた、極度のブラコンであった。何処に行くにも兄のカインに引っ付いて回り、何をするにも誉めそやす。カインの左腕はルルの定位置になっていて、常に縋る様に抱き締めているのである。

 当然のことながら、二人の両親は大層心配した。物心がつけば――二人がもう少し大きくなれば――――カインが学園に通い始めれば――――――。そんな願いは終ぞ叶うことなく、二人は未だに周りが『恋人同士』だと見紛うほどに、仲の良すぎる兄妹なのである。

 そんなある日、バルバトス伯爵はついに強硬手段に出ることにした。


「兄様が結婚⁉」

「ああ、そうだ」


 晩餐の席で、バルバトス伯爵は二人にそう話を切り出した。


「――――相手は?」

「ルッシェルナ侯爵家の御令嬢、ヴァレリア様だ。ルルと同い年で、才女との呼び声が高い」


 取り乱すルルに対し、カインは存外冷静だった。自身の結婚相手を聞きながら、淡々と食事を続けている。