「わたしもいつかは結婚しなければならない。ヴァルカヌスがウェヌス様と結婚したいと思っているなら、この場を収めるにも丁度いいかもしれないとは思った。だけどわたしは、殿下と結婚したいと思ったことは無い。
わたしは……」


 そこまで一思いに口にして、アグライヤは再び口を噤む。伝えたい想いは確かに胸にあるのに、上手く言葉になってくれないのだ。
 ヴァルカヌスは大きく息を吸い込むと、アグライヤの両手をそっと握った。


「アグライヤには悪いが……俺はおまえのことを『友達』だなんて思えなかった」


 ヴァルカヌスが真剣な表情でアグライヤを見つめる。


(一度口にしてしまったら、もう二度と戻れはしない)


 二人は急くように、寧ろ惜しむように、しばしの間見つめ合っていた。やがてヴァルカヌスが意を決したように徐に口を開く。アグライヤは大きく深呼吸をした。


「俺はずっと――――ずっと前からアグライヤのことが好きだった。おまえは俺の特別だったから」


 ヴァルカヌスの言葉が真っ直ぐアグライヤの胸に突き刺さる。心が大きく震え、目頭がグッと熱くなった。


「――――――本当に?」


 俄かには信じがたく、アグライヤは震える声でそう尋ねる。それだけで彼女が自分と同じ想いなのだとヴァルカヌスには分かった。アグライヤを胸に抱き締めつつ、何度も大きく頷いてみせる。