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 その後、当初の予定通りにアレスとウェヌスの婚約が発表された。神話の中から抜け出したような美しい二人に、集まった貴族達から感嘆の声が上がる。人の心が分からず何処か危なっかしい印象だったウェヌスも、今回のことで心を入れ替えたのだろう。本当に凛と誇り高い様子で佇んでいた。


(良かった……んだよな?)


 二人の姿を見つめつつ、アグライヤはヴァルカヌスを覗き見る。いつの間にか二人の手のひらは固く繋がれていた。


(これは、友達としての行動なのだろうか。それとも……)


 考えれば考えるほど、アグライヤは深みにはまっていく。尋ねたくて、けれど尋ねるのが怖い。


「そろそろ出ようか」


 そんな彼女をヴァルカヌスは会場の外へと連れ出した。


 月の明るい夜だった。二人で庭園を歩き始めて早十五分。互いに何も切り出せずにいる。


(ヴァルカヌスはわたしの友達)


 そのままで居たいような、けれど先へと進みたいような、何とも言えないもどかしさが二人を襲う。


「「――――さっきのことなんだけど……」」


 意を決して口を開いてみれば、ヴァルカヌスの方も同じだったようで、二人の言葉は絶妙に被ってしまった。しばしの沈黙。再び押し黙ったアグライヤを見つめながら、ヴァルカヌスが徐に口を開いた。


「さっきのこと……アグライヤは本当は殿下の手を取りたいと思っていたのか?」


 躊躇いがちにそう尋ねたヴァルカヌスに、アグライヤは目を見開く。


「違う。そんなこと思っていない」


 言いながらアグライヤは首を横に振る。


(伝えなければ)


 本当の想いは口にしなければ伝わらない。バクバクと鳴り響く心臓をそのままに、アグライヤはゴクリと唾を呑み込んだ。