「政略結婚のお相手に、わたしなんていかがでしょう?」


 このセリフを口にするのは、十歳の頃から起算して実に五回目。
 お相手は毎回同じ人。金色のフワフワした髪の毛に神秘的な色合いのアースアイ、アンニュイな雰囲気が堪らなく素敵なわたしの幼馴染、ソルリヴァイ・アースレアド公爵令息だ。


「――――――毎回聞くけど、どうして?」

「だって、我が家はソーちゃんと同じ公爵家で、家格も釣り合っているし。持参金もたっぷり用意できるし。
年齢だって同じで、顔は――――まあ、そこそこというか。破滅的じゃないと思うし」


 ここまでは前回までのプレゼンと全く同じ内容。だけど、今年は新しい要素をもう一つ用意している。


「この三年間、花嫁修業をしっかり頑張ったから、将来絶対にソーちゃんの役に立つよ」


 言えば、ソーちゃんはピクリと反応する。こちらをまじまじと見つめながら、彼はそっと首を傾げた。


「具体的には?」

「それはもう! 公爵家の奥方様に必要な、ありとあらゆる知識を身に付けたんだから。
社交術や礼儀作法もバッチリだし! 刺繍や語学、乗馬にダンスといった貴婦人の嗜みは一通り修めたよ。それに、お父様から領地の経営方法だって学んでるの! もちろん、ソーちゃんがこれでもまだ足りないって言うなら、いくらでも必要な知識を身に付けるつもりだし」


 この三年間、公爵夫人であるお母様を参考に色んなことを学んできた。
 ソーちゃんと結婚するために。彼が『わたしで良いよ』って言ってくれる日を夢見て。


「そっか」


 ソーちゃんはそれだけ言うと、くるりと踵を返してしまう。
 連敗記録更新。どうやら今回もダメだったらしい。


「結婚、したいんだけどなぁ」


 彼の後姿を見送りながら、わたしはため息を吐いた。