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 そこから先は、目まぐるしい勢いで色んなことが動いた。

 両親は突然のことに驚きつつも、二人の婚約を快諾してくれた。実際の婚約までには少し時間が掛かるものの、両家は内々に約束を取り交わす。
 アグライヤの予想通り、二人の関係は翌日には学園や貴族達の噂になっていた。こうなっては、もう引き返すことはできない。噂を事実と認め、互いに婚約者として振る舞った。


「どんな縁談にも頷かなかったアグライヤ様が……」


 周りからそんな風に言われるたび、アグライヤは恥ずかしくて堪らなくなる。『不可抗力だったのだ』と言い訳して回りたくなった。


 ヴァルカヌスとの婚約に一番驚き、戸惑っているのは他でもない――――アグライヤ自身だ。


(どんなに好きでも、ヴァルカヌスとの恋が実ることは無い……そう思っていた)


 それどころか、一生想いを打ち明ける気すらなかった。あまりにも急転直下の恋模様に、心も身体も追い付いていない。


(いや……厳密に言えば、恋が実ったわけではないのだが)


 ヴァルカヌスは恐らく、ウェヌスへの当てつけでアグライヤとの結婚を決めたのだろう。たまたまアグライヤが側に居たから――――アグライヤがそう口走ったから――――決してアグライヤを想っているからではない。


(わたしもあいつも、いずれは結婚しなければならないし、単に都合が良かっただけ)


 そうと分かっているから、ずっと好きだった人との結婚だというのに、素直に喜ぶことが出来ずにいる。


(わたしはあいつの友達)


 夫婦になっても、きっとヴァルカヌスの気持ちは変わらない。けれどアグライヤの方は結婚後も、これまで通りに彼と接することができるのだろうか?


(多分無理だ)


 それでも、もうどうすることもできやしない。ズキズキと痛む胸を押さえ、アグライヤは深いため息を吐いた。