「わたくしとヴァルカヌスは何というか……あまり馬が合いませんでしたし。破談になって良かったと思っていますの。
だってヴァルカヌスは、わたくしのことをちっとも褒めて下さらないんですもの! 他の方はいつだってわたくしを大切にしてくださいましたのに、あんまりですわ。
それにヴァルカヌスったら折角綺麗な顔をしてますのにいつも仏頂面と申しますか……気難しい表情をしているから、こちらが疲れてしまうんですの。
ほら……お二人は昔からとっても仲が良かったでしょう? 
まぁ、彼はわたくしのおさがり(ルビ)ではございますけれども――――」


 その瞬間、アグライヤは怒りで血液が沸騰するかのような心地を覚えた。ウェヌスはアグライヤの異変に気づくことなく、クスクスと楽しそうに笑っている。


「では、そう致しましょう」

「……え?」


 アグライヤはスッと立ち上がると、驚くヴァルカヌスの手を握る。


「わたしがウェヌス様に代わり、ヴァルカヌスと婚約させていただきます。ウェヌス様……本当に、宜しいのですね?」

「えっ……? ええ、もちろん」


 ウェヌスはあまりのアグライヤの剣幕に驚きつつ、おずおずと頷くのだった。