「お披露目の際には、二人揃っていらっしゃってね? わたくしの晴れの舞台を是非お二人にも見ていただきたいの」

(…………は?)


 アグライヤは思わず眉間に皺を寄せ、ウェヌスのことを凝視する。けれど、彼女は全く悪びれることなく朗らかな笑みを浮かべていた。


(ヴァルカヌス……)


 あまりにも気の毒過ぎて、アグライヤにはヴァルカヌスを見ることが出来ない。そんなアグライヤの手を、ウェヌスがそっと握った。


「楽しみですわ。アレス殿下は本当に美しい方だし、わたくしと並んだらとっても見栄えがすると思いますの」

「……そうですね。わたしもお二人はとてもお似合いだと思います」


 アレスとウェヌスは、紛うことなき美男美女だ。それは誰の目にも明らかな事実で、いちいち否定する理由はない。けれど、受け取りようによっては、元婚約者であるヴァルカヌスと比較されているようにも聞こえてくる。平常心を保つため、アグライヤは大きく深呼吸をした。


「ねぇ、アグライヤ様……アグライヤ様には未だ婚約者がいらっしゃいませんし、いっそのことヴァルカヌスと結婚するのは如何でしょう? わたくし、二人はとってもお似合いだと思いますの」


 その瞬間、アグライヤは大きく目を見開いた。ウェヌスのこともヴァルカヌスのことも直視することが出来ない。


(本当に何を言っているんだ?)


 恐らくウェヌスには本当に悪気が無いのだと分かっている。彼女はただ、人の心が分からないだけなのだ。皆が彼女を崇拝しているし、誰かに傷つけられたことも、上手くいかずにヤキモキした経験も殆どないのだろう。ウェヌスの場合はその美貌だけで、大抵のことが片付いてしまう。自分の都合の良いように人々を操作できるからだ。