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 それから半刻後、フレデリックとアンジェラは夜会会場を抜け、夜の庭園を二人で歩いていた。


(一体何からお話すれば良いのだろう)


 思いもよらない事態の連続に、アンジェラは未だ戸惑っている。
 フレデリックが『アンジェラを疑っていなかった』ことも、『シャーロットを愛し、アンジェラとの婚約を破棄しようとしていたわけではない』ことも、『アンジェラが嫌がらせを受けていると知っていた』ことも、はたまた『嫌がらせの犯人をシャーロットと見定め、それらを秘密裏に探っていた』ことも、全てが驚きだった。


「すまない――――ビックリさせてしまったね」


 フレデリックはそう言って、アンジェラの髪を優しく撫でる。


(あっ……)


 彼がこんな風にアンジェラに触れるのは、実に二か月ぶりのことだった。この間フレデリックは、シャーロットを己の側近くに置き、アンジェラとは距離を置いていたからだ。
 涙が零れ落ちそうになるのを必死で堪え、アンジェラはグッと唇を噛む。


(こんなことで泣いていてはダメ。フレデリックさまをガッカリさせてしまうわ)


 王太子妃に内定して以降、アンジェラはずっと気丈に振る舞ってきた。けれど、彼女は元来強い人間というわけではない。
 どれだけ完璧な令嬢として振る舞っていても、未来の王太子妃というだけで、人の評価は辛くなる。けれど、王族と結婚する以上、それらは当然に受容できなければならない。だからこそ、どれだけ根も葉もない噂が立とうと、フレデリックとの婚約を解消しろと脅迫状が届いても、アンジェラも実家である公爵家も、それらを必死に跳ねのけてきたのだ。

 けれど、フレデリックがシャーロットを側に置くようになってから、アンジェラは自分に自信が持てなくなっていた。


 フレデリックは可愛げのない強い女性ではなく、庇護欲を擽るようなか弱い女性を好むのではないか――――。
 好意を伝えたことも無ければ、甘えたことすら一度もない。そんな自分を、フレデリックは疎ましく思い、結婚を望んでいないのではないかと。