「ねぇ、シャーロット嬢。俺の婚約者に悪質な嫌がらせをしたのは一体誰だと思う? 俺が贈ったブローチや宝石、私物を幾つも盗み、『婚約者を辞退しろ』なんて陰湿な手紙を何十通も送り付け、陰で悪評を流し、挙句の果てに悲劇のヒロインぶっている令嬢が居るんだけど、君は何か知らない?」

「わっ……わたくしは何も…………」

「実はね、アンジェラに対する脅迫状と、君が俺に送ったラブレター、どちらも同じ筆跡なんだ。これは一体どういうことだろう? ねぇ、シャーロット嬢」


 フレデリックは手紙を二通広げて見せ、シャーロットのことを冷たく見下ろす。騎士達が数人、周囲を無言で取り囲んでいた。シャーロットは両手を左右に大きく広げ、彼等のことを牽制する。


「そんな……そんなの何かの間違いですわ! わたくしがそんなことする筈ないでしょう?」

「え? だけど、さっきアンジェラが『身に覚えがない』って言った時、君はアンジェラの言うことに耳を傾けなかったよね? それどころか、君はアンジェラの言葉を遮ったんだし、俺が君の話を聞く義理も、信じる理由も無いと思うんだけどなぁ」


 笑顔を浮かべてこそいるものの、今や誰の目にもフレデリックが怒っていることは明白だった。
 当事者であるアンジェラはというと、思わぬ展開に目を瞬かせつつ、事の成り行きを呆然と見守っている。


「そっ……そうですわ! わたくし筆跡に自信が無いものですから、いつも手紙の類は侍女に代筆をさせているのです! フレデリックさまに対して失礼なことは承知しておりましたが、下手糞な筆跡を見るより、そちらの方が良いかなぁと思いまして……。
ですから、フレデリックさまがお持ちの手紙の筆跡が同じだと言うなら、アンジェラさまを虐げた犯人はきっと、わたくしの侍女ですわ! 身内から犯罪者が出るなんて誠に遺憾ではございますが、何分最近入った侍女でして……申し訳ないことでございます」


 なんとか言い逃れができたと安堵の表情を浮かべるシャーロットに、フレデリックはいよいよ声を上げて笑った。あまりの反応に、シャーロットは「なんですの」と視線を彷徨わせ、恥辱で顔を真っ赤に染め上げている。