「いや、失礼。そうか……シャーロット嬢は俺が君に恋をしているって思っていたんだね。気づかなかったよ。まさか俺が、婚約者が居るのに別の令嬢に心を奪われるような男だと思われていたなんて」


 フレデリックの声が酷く冷ややかに響く。その場にいたものはみなビクリと身体を震わせ、ゴクリと唾を呑み込んだ。


「それは……そのぅ…………」

「そんな軽薄で浅はかな男だと思われているなんて、俺もまだまだだな。すごく残念だよ」

「えっ……いや、そういう訳では」

「……ああ、まさかとは思うけど、君は自分がアンジェラに取って代われると思っていたのかな? さすがにそんなことは無いよね。だって、妃になろうという人間が、たかが苦言を呈されたくらいで泣き言を言っていたら、宮廷でやっていけるわけがないもの。
大体、アンジェラが君に指導をしたとしても、厳しいお妃教育の百分の一にも満たない程度の優しいものだよ。
母上だって、結婚当初は周りの令嬢に相当嫉まれて、物を隠されるのなんて日常茶飯事だったらしいし。アンジェラだって口にしないだけで、ずっとそういう目にあっている。けれど、彼女は泣き言も恨み言も、何一つ口にしないんだ――――君とは違ってね」


 先程アンジェラのことを『下品』と罵った時に浮かべていた勝ち誇ったような表情から一転、今のシャーロットは青ざめ、ブルブルと震えていた。フレデリックはニコニコと屈託のない笑みを絶やさぬまま、少しずつ少しずつシャーロットへとにじり寄る。