「それで? どうして貴族のお嬢様が俺のところに?」


 エーヴァルトは頬杖をつき、面白そうに首を傾げる。煩かった女性たちの声は今はしない。エーヴァルトが人払いをしたからだ。


「別に本気で俺の恋人になりたいって訳じゃねぇだろ? っていうか、俺は遊びの出来ない女はお断りだ」

「とっ、当然です! だからこそ、あなたにお願いに来たのですから」


 グラディアはそう言って胸を張った。エーヴァルトは眉間に皺を寄せ、黙ってグラディアを見下ろしている。グラディアは玉座の前にちょこんと正座した。


「――――わたくしにはクリストフという幼馴染がいます。侯爵家の跡取り息子で、先日、わたくしの親友ロジーナとの婚約が決まりました。ロジーナは由緒ある伯爵家の御令嬢で、すごく綺麗で強い女性なんです。
ですが彼は、とある理由からロジーナとの婚約を拒否していまして……」

「ふぅん――――で、その理由ってのがあんたなわけ?」

「……話が早くて助かります」


 グラディアは眉をへの字型に曲げ、深々とため息を吐く。エーヴァルトは椅子から降りると、グラディアの前へしゃがみ込んだ。


「幼馴染に恋して婚約を拒否、ねぇ。それで、俺があんたの恋人の振りをして、クリストフって奴があんたを諦められるように仕向けたいってことか」

「はい。わたくしに恋人がいると分かれば、彼はすぐにロジーナと婚約をすると思うんです。……お願いできませんか?」


 グラディアの瞳は憂いを帯びて揺れていた。断られることに対する不安なのか、はたまた別の理由があるのか、エーヴァルトには判じられない。