「――――――至らぬ婚約者で申し訳ございませんでした」

「ん?」


 彼にしか聞こえない程か細い謝罪の言葉に、フレデリックは小さく首を傾げる。


「どうしてそんな風に謝るんだい? 君は彼女に嫌がらせなんてしていないのだろう?」


 その瞬間、アンジェラは弾かれたように顔を上げた。唇は震え、眉が苦し気に寄せられている。


「――――殿下は私がシャーロットさまのことを虐げたと……そう信じているのではないのですか?」

「そんなこと、信じている筈がないよ。俺はただ、三人で話をしたかっただけだ。おかげで思わぬ収穫もあったけど」


 そう言ってフレデリックは穏やかに微笑み、アンジェラの髪を撫でる。その瞬間、シャーロットが驚きに目を見開いた。


「フレデリックさま……一体何を!」

「何って……自分の婚約者を愛でているだけだけど」


 フレデリックは優し気な微笑みを浮かべつつ、アンジェラを庇うようにして抱き寄せる。


「そんな……! あり得ませんわ! だって、フレデリックさまは今夜、アンジェラさまとの婚約は破棄なさるのでしょう?」

「え? そんなこと、する筈がないだろう? 寧ろ、どうしてそんな風に思ったのかな?」

「どうしてって……フレデリックさまが仰ったんじゃありませんか! 『俺の恋路を邪魔する奴には、そろそろ退場してもらおうかな』って」


 シャーロットの顔は興奮で真っ赤に染まっていた。フレデリックはプっと小さく吹き出すと、声を押し殺して笑い続ける。その途端、シャーロットの表情が恥辱に歪んだ。