「話と言うのは他でもない、シャーロット嬢のことなんだ。
アンジェラ――――シャーロット嬢が君から嫌がらせを受けたと言っている。このことは事実だろうか?」


 淡々と響くフレデリックの問いかけに、アンジェラはすぐさま首を横に振った。


「いいえ。全く身に覚えがございません」

「そんなっ……! そんなの嘘ですわっ」


 その瞬間、シャーロットが身を乗り出し、声を荒げた。庇護欲を擽る青色の瞳から絶えず涙が流れ続けている。対するアンジェラは唇を引き結んだまま、真っ直ぐにフレデリックとシャーロットのことを見据えていた。


「アンジェラさまはいつもいつも、わたくしに酷い言葉を浴びせるのです! 上位貴族を相手に馴れ馴れしい、マナーがなっていない、教養がないって! もっと立ち居振る舞いには気を遣うべきだって、わたくしを相手に説教を垂れますのよ。
持ち物を隠されたことだって、一度や二度じゃございません! 先日は母から貰った大事なネックレスを隠されて、わたくし……本当に悲しくて。
それに加えて先日『フレデリックさまは私の婚約者だから手を出さないで』なんてことまで仰ったのですわ!」


 その途端、それまで涼し気な表情を浮かべていたフレデリックが小さく目を見開く。


「アンジェラ――――君、そんなことを言ったの?」

「それは…………」

「全部本当のことですわ! 弱いものをいじめて、王族の方を相手に独占欲を剥き出しにして! アンジェラさまの方がわたくしよりも余程下品だと思います! こんな方、フレデリックさまの妃に相応しくありませんわ!」


 アンジェラの言葉を遮り、シャーロットは勢いよく捲し立てる。広間の視線は完全に三人へと集まっていた。アンジェラは苦し気に眉間に皺を寄せると、フレデリックから視線を逸らす。


「アンジェラ」


 そう言ってフレデリックはアンジェラの元へと歩み寄る。アンジェラはほんのりと俯いたまま、彼を見ようとはしない。