「久しぶりですね、アンナ嬢」


 ノックもなしに控室の扉が開く。見れば、見覚えのない男性が下碑た笑みを浮かべ、アンナの方を睨んでいた。近衛の装束。どうやらエヴァレットの側近の一人らしい。


「不躾な――――わたくしを一体誰だと……」

「知ってますよ? 難攻不落の秀峰、アンナ様でしょう? ――――いい気なもんだな。散々馬鹿にした俺のことをすっかり忘れ、自分はちゃっかり王太子妃。こんな愚かな女が妃になるんだ。この国に未来はねぇよ」


 そう言って男は、アンナの方ににじり寄った。控室の側に居るはずの護衛がいない。この男にやられたか、買収されたのだろう。アンナの額に汗が滲んだ。


「結婚祝いに良いことを教えてやろう。エヴァレット殿下はな、あんな人畜無害そうな顔をして、本当はあんた以上に気位の高い御方なんだ。おまえに声を掛けたのも、『自分ならばおまえを攻略できる』という殿下の自尊心の表れ。当然愛情なんてありゃしないし、本当は心の中でおまえのことを馬鹿にしているよ」


 男はアンナのことを見下ろしながら、そんなことを言う。アンナの心臓はバクバクと鳴り響き、息が上手くできなくなった。