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 両親やモーリスは、アンナが何のお咎めもなく帰還したことを酷く喜んだ。


「良かった! 本当に生きた心地がしなかった」


 そう口にしたのはモーリスだ。深々とため息を吐きながら、涙を流さんばかりに喜んでいる。


「だから言いましたでしょ? 何がそんなに心配だったのか、不思議ですわ」

「アンナ、おまえは自分のことをちっとも分かっちゃいない。普通じゃないんだよ、おまえは」


 不安が解消されたためか、モーリスの口調は少しばかりキツイ。アンナはムッと唇を尖らせた。


「普通とはどういう方を言いますの? わたくしは自分に正直に生きているだけですわ」


 誰しも生まれ持った性質というのはある。アンナは単に『プライドの高さ』が突出していたというだけだ。仮に『臆病』だとか、『優しい』といった性質が突出していたとしても、誰からも文句を言われることはない。そう思うと、アンナには納得がいかなかった。


「それに、殿下は『楽しかった』って言ってくださいましたわ!」

「……へ?」


 アンナの言葉に、その場にいた全員が目を丸くした。


「嘘……」

「嘘じゃありません。それに殿下は『また会いたい』と、そう言ってくださいましたのよ!」


 アンナの表情は鬼気迫っていて、とても嘘を吐いているようには見えない。けれど、これまでの婚約候補者たちに対する前科が、ゴッドウィンオースティン家の面々を懐疑的にさせた。