そんなことがあった数日後のこと。アンナの元に王宮から遣いが来た。
 呼び出しの主は、この国の王太子エヴァレット。アンナの二つ年上の二十歳で、まだ独身。婚約者も存在しない。


「いやいや、アンナには無理だろう」


 そう口にしたのはアンナの両親だった。
 公爵家という恵まれた家柄、これまでだって王族との婚姻話が出なかったわけではない。けれど、アンナの高すぎるプライドは、王族に対しても発揮されるに違いないと、両親が巧妙にはぐらかしてきたのである。


「まぁ、何故ですの? わたくし、立派にお話相手を務めて参りますのに」


 アンナはそう言って、心底不思議そうに首を傾げた。
 今回の名目は『お茶会』へのお誘いだ。王宮の用意したお茶を飲みながら、王子の話し相手を務めればそれで良い。

 けれど、その裏にある意図は明白だった。
 エヴァレット殿下が本気で花嫁を探している。それは、貴族ならば誰もが知る事実だからだ。


「アンナ、よ~~く考えなさい。相手は王族なのよ? いつものように、『あなた』が最上、ではダメなのよ?」

「そんなの当然ですわ。不敬扱いされるような真似、わたくしがするわけ無いじゃありませんか」

(((いや、アンナならやりかねない)))


 両親とモーリスは、互いに顔を見合わせつつ、心の中でそう呟いた。
 娘の粗相は即ち、自分たちの首に直結しうる。けれど、今回の招待はエヴァレット自身の手によるものだ。行かせないという選択肢も、正直言ってない。

 ゴッドウィンオースティン家の面々は、何十回も何百回も声が出なくなる程時間をかけて、アンナに注意事項を説き続けたのだった。