アンナはその高すぎるプライドに比例するように、この上なく美しく、賢い娘だった。貴婦人に求められるマナーや知識、華もある。その代わり、超が付く程負けず嫌いで、気位が高い。

 己の知識をひけらかす目的でアンナに話を振れば、あっという間に論破されてしまうし、鼻で笑われてしまう。おまけに、自分が相手の下であることを良しとしないため、男性としては当然面白くない。

 こんな調子では婚約を結んだところで、すぐに破談になる。このため、アンナの両親は、娘に安易に婚約を結ばせず『お試し期間』なるものを用意したのだ。


「アンナ。兄さんはおまえのことを心配しているんだ」


 モーリスはそう言ってため息を吐いた。いつにない真剣な表情に、アンナはムッと唇を尖らせる。先程アンナの破談を笑っていたというのに、まるでそれを忘れてしまったかのような態度だった。


「おまえ、貴族たちの間で何て噂されてるか知ってるか? 難攻不落の秀峰、アンナ・ゴッドウィンオースティンなんて呼ばれてるんだぞ?」


 モーリスの言う通り、アンナは貴族たちの間で密かに『攻略対象』として有名になっていた。実際に婚約者候補として名乗りを上げるものは数知れず、アンナを言い負かすことが出来る人間、彼女が認める人間が現れるのかを楽しみながら見守っているものも多い。今のところ、結果は散々なのだが。


「…………光栄ですわ。難攻不落、結構なことではございませんか」


 アンナはそう言って尊大に笑う。本人がこの調子なのだ。もう、気が済むまで放っておくしかない。


「分かった。もう兄さんは何も言わない」


 モーリスは深々とため息を吐きつつ項垂れた。