「そ……そんなの、嘘っぱちだよ、グラディア! 僕が好きなのはグラディアだ! ずっとずっと、君と結婚したいと思っていた! 本当だ! 僕にはもう、君しかいないんだ!」


 グラディアはゆっくり、静かに顔を上げる。すると、クリストフの強張った表情が目に入った。自己保身と欺瞞に満ちた笑顔だ。少し前まで真摯に響いていたセリフも、今は陳腐な嘘にしか聴こえない。


(エーヴァルト様が仰っていた意味が、今ならよく分かるわ)


 『誰かを好きな振りをした自分』が好き、という人間は一定数存在する。彼等は総じて己が一番好きなのだ。それを今、グラディアは身を以て実感している。クリストフの言葉からは、グラディアに対する愛情を一ミリも感じられなかった。


「グラディア!」


 グラディアがそっと、クリストフの手を握る。彼の手のひらは無機質で、温度も感触も、何も感じられない。それは、グラディアのクリストフに対する感情を如実に表しているように感じられた。


「さようなら、クリストフ」


 そう言ってグラディアは朗らかに笑う。クリストフの表情が絶望に歪んだ。