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「そろそろ降参したらどう?」

「何のことだ?」


 幼馴染からの問いかけにアザゼルは質問で返した。

 本当は何のことか、分からないわけでもなかった。けれど、長年良い子を演じてきた付けだろうか。素直に返答をするのは癪だった。


「サラちゃんのこと。どうして頑なに拒否するかな~~?あんなに可愛いのに」


 アザゼルはムスッと唇を尖らせた。


「気やすくサラちゃんとか呼ぶな。それに、あいつが可愛いのは当たり前だろ?――――――って感じ?」


 そう口にしたのはクラウドだ。まるでアザゼルの心の中を読んでいるかのような物言いに、クラウドは小さくため息を吐いた。


「分かっているなら、あいつにちょっかいを掛けるのは止めろ。おまえみたいないい加減な奴にサラは渡さん」


 アザゼルはそう言って、手に持った書類数枚に目を通していく。そこに書かれているのは男性――――しかも、アザゼル達と同じか少し上位の年頃の、家の爵位が高いものの情報だ。


「そんなこと言って!王太子の俺でダメなら、一体どんな奴だったらサラちゃんに相応しいわけ?」


 クラウドは唇を尖らせながら身を乗り出した。


「家柄は伯爵家以上、顔も整ってないと却下。それから包容力と忍耐力があって、優しくないとダメ。成績優秀で、将来仕事できる奴じゃないとサラが苦労するだろうからその辺も厳しく見る。あと浮気とか余所見する奴も論外」


 アザゼルの唇があまりにも流暢に動く。クラウドは目を丸くしてアザゼルを見つめながら、クスクスと笑った。


「おまえ……そんな男、本当にいると思う?」

「いる。いてもらわないと困る。じゃなきゃサラが一生未婚になるだろ」


 アザゼルは真剣な表情でリストに目を通しながら、小さくため息を吐いた。実際はクラウドの言う通りで、サラに相応しい男性などすぐに見つかるわけがない。


(でも……)


 アザゼル自身がサラと結婚するわけないはいかない。眉間に皺を寄せながら、アザゼルは目を瞑った。