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 翌日から、サラの猛アタックが始まった。


「おはよう、アザゼル!」


 何事もなかったかのような満面の笑みを浮かべ、サラはアザゼルに笑いかける。けれどアザゼルは至極鬱陶しそうな表情を浮かべると、何も言わず、そのままスタスタと歩き去ってしまった。
 その途端、俄かに周囲が騒めいた。


「今の……本当にアザゼル?」

「サラのことを無視するなんて」


 皆が皆、信じられないと言った形相でアザゼルの後姿を見つめる。
 容姿はアザゼルのままだというのに、目つきや顔つきが違うだけで、随分と別人に見えてしまう。それに、サラとアザゼルの婚約や仲の良さは、何年も前から周知の事実だ。混乱して当然の状況だった。


(挨拶をシカトされるぐらい、想定の範囲内よ。このぐらいでめげたりしないんだから)


 グっと拳を握りしめ、サラは急いで校内へと向かった。

 それからというもの、教室でも、廊下でも、どこでもここでも、サラはアザゼルに付きまとった。必死にあれこれ話しかけているものの、アザゼルはまるでサラの存在を認知していないかのように扱う。


(あぁ……憐みの視線が痛いよ~~~~)


 サラが取っている行動自体はいつもと変わらないはずなのに、一方が拒否反応を示しているだけで、周りに与える印象は随分と変わって見える。今のサラを傍から見れば、好意を寄せる相手にアタックをしているのに全く相手をされていない哀れな女の子だ。

 気恥ずかしさは残るものの、他に解決方法が無いのだから致し方ない。友人たちからは事情聴取を受けたり、慰められたりと、今日のサラは中々に忙しかった。