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 次にサラが向かったのは、街の大図書館だった。

 国中のありとあらゆる本が集められ、庶民から貴族まで、多くのものが訪れるこの図書館は、アザゼルのお気に入りスポットだった。ラファエラ達の話によると、昨日もアザゼルは一人で足を運んだ様子だったという。


(タイミングからして、ここに手がかりがあると思うんだけど)


 大理石のロビーを歩きながら、サラはキョロキョロと辺りを見回す。この図書館は本の種類ごとにフロアが別れているため、どこから見て回れば良いものか迷ってしまう。それに、何十万冊もの本の中から、アザゼルを変えた何かを見つけるのは決して容易ではない。そもそも、ここに手がかりがあるという確証はないのだ。


(ダメだ。始めてすらないうちからめげそう)


 しょんぼり気を落としていると、誰かがサラの肩を叩いた。


「こんにちは、サラ」


 振り向くと、そこには金に輝く長髪を緩く一つにまとめた、見目麗しい男性が立っていた。


「クラウド様……!」


 思わずサラは膝を折る。けれどクラウドはクスクス笑いながら、サラの頭を撫でた。


「俺にそんな堅苦しい挨拶はいらないよ。幼稚舎からの仲だろう?」


 サラはそっとクラウドを見上げながら、小さくコクリと頷いた。

 クラウドはアザゼルとサラの幼馴染であり、この国の王太子だ。最上の身分に文武両道、容姿もすこぶる良い上、女性の扱いに長けているため、学校ではいつもモテモテだった。

 サラにはアザゼルがいるため、彼に心を揺さぶられることも、惹かれることも無かったが、クラウドからのスキンシップは多く、ヤキモキすることも多い。とはいえ、クラウドはアザゼルとも仲が良いため、何の気なくやっていることだとはサラにも分かっていたのだが。