「だけど、メアリーは? 妹のことはどうするのです?」


 私の代わりにレイリーの婚約者になったメアリー。仮にも『元姫君』だったメアリーを隣国に連れて行くことはできないし、国を跨いだ遠距離で、夫婦生活が上手くいくとは思えない。


「俺はあの時、姫様との――――セイラとの婚約破棄を承諾したわけではありません」


 そう言ってレイリーは、私の指先に触れるだけのキスをした。心臓が痛く、目頭が熱くなった。


「俺の愛情は、いつだってあなただけのものです。夫になることは叶いませんでしたが、あなただけの騎士として、いつまでも、真心を込めてお仕えすることをここに誓いましょう」

「嘘よっ!」


 気づけば瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちていた。シンと静まり返った式典会場に、わたしの声が木霊する。父も妹も、皆が私達を見つめていた。


「あなたは――レイリーはずっと、私のことを嫌っていたじゃない! 前みたいに笑ってくれなくなって、優しくしてくれなくなって! 私との結婚なんて嫌だったんでしょう?」

「そんなこと、あるわけないでしょう! 大好きなあなたが……絶対に手に入ることはないと思っていたセイラが、ある日いきなり婚約者になって! こんな俺じゃ釣り合わないって我武者羅に頑張って! 好きすぎて、気づいたら前みたいに接することが出来なくなってたんです! セイラが本当は、他国の王妃になりたがってたって分かってるのに、それでもどうしても手放してやれなくて」


 思ってもみない彼の本心に、私は息を呑んだ。


「違うわ! 私、本当は王妃になんて…………」


 そう言い掛けて、私はハッと口を噤んだ。『妃になんてなりたくない』と言えたなら――――もう一度、レイリーとやり直せるならどんなに良いだろう。
 けれど、私は一国の姫だ。国を背負っている私が、そんなことを口にして良い筈がない。時計の針が戻ることは無いし、私達が夫婦になる未来は存在しない。涙が止め処なく流れ落ちた。


「――――お姉さまったらズル~~い!」