その日の残りの授業は結局、全てキャンセルになった。私の様子があまりにもおかしいからと、強制的に休むよう言い渡されたのだ。


(姫として……ううん、人間としてダメダメじゃない、私)


 父は、こんな私を『自慢の娘』と言ってくれたけど、自分が王妃の器だとは、とてもじゃないけど思えない。
 けれど、ようやく私という枷から解放されたレイリーを再び縛り付けることだって当然できない。


(八方塞がりって、こういうことを言うのね)


 そんなことを思うと、ジワリと涙が滲み出た。


「……言ったでしょう? 外を出歩くときは供のものを連れてください、って」


 その瞬間、心臓がドクンと大きく音を立てて跳ねた。誰かが隣に座る感覚がして、頭が優しくポンポン撫でられて。それが誰かなんて、振り向かなくてもすぐに分かる。


(レイリー)


 堪えきれず、涙が頬を伝った。


「言えないわ。付いて来てほしいだなんて」


 ポツリとそう口にしつつ、私は首を横に振った。
 本当はこの数年間何度も、レイリーのいる騎士の詰め所を訪ねようと思った。ただ彼に会いたくて、それだけのために彼を連れ出したいって思いながら、行き場のない想いを一人で持て余していた。


「俺は付いて行きますよ」


 レイリーはそう言って、私の手を握った。途端に身体が物凄く熱くなり、身体がブルりと震える。


「言われなくても、俺は姫様に付いて行きます」


 レイリーは私の指先に、触れるだけのキスをする。こんなこと、今まで一度だってされたことがなかった。驚きと戸惑いと嬉しさが綯交ぜになった私の顔を、レイリーはまじまじと見つめている。胸が張り裂けそうな程痛かった。