そんな私たちの関係が変わってしまったのは、父が彼を私の婚約者に指名した十三歳の頃だった。
 彼はそれまでみたいに私の名前を呼んでくれなくなった。笑い掛けてくれることも、一緒に庭園を駆け回ってくれることもなくなった。会いに来てくれる回数も減って、次第に会話も弾まなくなって。
 そこまできてようやく、私は彼に嫌われてしまったことを悟った。


(そりゃぁそうよね)


 王女が婚約者だなんて、十三歳の少年には重すぎる枷だ。
 私だって本当は、他国の王妃として嫁ぐものと思っていた。けれど、姉君二人が友好国に嫁ぎ、周辺に王位継承権を持つ年頃の王子はもういない。ならば、と国王が選んだ私の結婚相手がレイリーだったのだ。

 私に関わったばかりに、レイリーは将来が狭められてしまった。誰かと出会い、恋愛結婚することも、好き勝手に事業を興すことも許されない窮屈な生活。そんな彼が私を嫌いになるのは、当たり前だった。

 そうして五年の月日が流れた。わたし達はもうすぐ成婚の日を迎える。レイリーに嫌われたまま、私は彼の妻になるのだ。



「――――そろそろ城に戻るわ」


 こっそり目尻を拭いながら、私は立ち上がった。レイリーは小さくため息を吐きながら立ち上がると、私に向かってそっと手を差し出す。如何にも不服そうなその表情に、私の心が軋んだ。


「結構よ。自分一人で帰れるわ。あなたにはあなたの仕事があるのだし」

「そういうわけに行かんでしょう。俺の体面も考えてくださいよ」


 そう言ってレイリーは半ば強引に私の手を握る。騎士らしさの欠片もない乱暴な仕草に、私の気分は更に下降した。


「そうね。そうよね。お父様やおじ様に叱られるのは、あなたの方だものね」


 レイリーはチラリと私を振り返り、軽く目を伏せる。手袋越しに感じるレイリーの体温に心臓がトクトク鳴った。


「――――そんなに俺は頼りがいがありませんか?」


 ボソリと、聴こえないほどの小声で、レイリーはそう尋ねた。


「一体、何の話?」


 尋ね返しながら、私は眉間に皺を寄せる。
 結局、答えが返ってくることがないまま、私達は別れた。