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 わたしの母親は、とても優秀な魔女だった。
 今は引退した先代国王に仕え、戦火から国を守った英雄で。だからこそ、その娘であるわたしには多大な期待が寄せられていた。
 けれど、蓋を開けてみれば、わたしは簡単な魔法すらまともに発動させることのできないポンコツで。周囲の落胆ぶりは火を見るより明らかだった。


(実家では自分を『落ちこぼれ』だなんて思うことなかったのにな)


 母は小さな魔法でも、成功するたびに手を叩いて褒めてくれたし、今みたいに上手く魔法が発動しない、なんてことは無かった。息を吸うみたいに自然に、魔法を奏でられていた。
 そんなわたしがキース様と出会ったのは、皆と行った実習先でのこと。そこでもわたしは、指導役の魔女が命じたとおりの魔法を出すことが出来なくて。一人で居残り演習をしていた。


「何をしているの?」


 そんなわたしに声を掛けてきたのがキース様だった。
 一人じゃ危ないからって、キース様はわたしの側にいてくれた。事情を話すのは恥ずかしいし勇気が必要だったけれど、キース様は優しく受け止めてくれた。
 正直言ってこの時期、わたしは魔法が好きじゃ無くなっていた。楽しくないし、寧ろ苦痛で。だけど背を向けるのも嫌で、一人泣きながら練習していたんだけど。


「ハナは偉いね」


 キース様は、そんなわたしを丸ごと受け止めてくれた。同じ見習い魔女たちに同じことを言ってたら、きっと顰蹙を買っていただろう。けれど、キース様はわたしの気持ちを否定しなかった。それどころか、「俺は君の魔法が好きだよ」って言ってくれて、わたしは涙が止まらなかった。
 その日からわたしは、キース様のことが好きだった。
 ずっとずっと、好きだった。