そうしてわたしは、キース様の恋人の座を手に入れた。
 ただ、薬の効果っていうのは長続きしない。
 わたしが参考にした著書『誰でも作れる惚れ薬』によれば、惚れ薬の効果が持続するのは24時間。それを過ぎれば、相手は正気を取り戻し、薬を使っていた時に感じていた恋慕も、薬によって吐かされた言葉も忘れてしまう。


(そんなの、嫌)


 魔女って言うのは欲深い生き物だ。初めは一瞬、一時でも良いから、キース様の心が欲しいと思っていたはずのわたしは、気づけば毎日、キース様に惚れ薬を吹き付けていた。
 見習い魔女であるわたしが通う宮殿と、キース様が通う騎士団の詰め所は結構な距離がある。けれどわたしは、足繁くキース様の元に通っては、惚れ薬を使い、彼の笑顔と愛の言葉を独り占めにしていた。


「今日は俺が会いに行くって言ったのに」


 キース様はそう言って、わたしの真っ黒な髪の毛に指を絡ませる。わたしたちの間には拳一つ分の距離すらない。キース様の腕に抱かれて、わたしは夢見心地のまま首を横に振った。


「一秒でも、早く会いたくて」


 だって、前回薬を使って24時間を一秒でも過ぎてしまったら、惚れ薬の効果は消えてしまう。だからわたしは、前日よりも絶対、早い時間にキース様に会う必要があった。


「それは俺も同じだよ」


 キース様はそう言ってわたしの頬を撫でた。大きくてゴツゴツした手のひらが、わたしを宝物みたいに愛でる。鼻先が触れ合って、吐息も重なるほどに近くて、わたしの瞳はキース様の唇に釘付けになってしまう。


「キース様」

「うん」

「好きって言ってください」


 薬を使い始めて今日で五日目。効果のほどを確信したわたしは、そんな大胆なことを口にするに至る。心臓がドキドキ鳴り響いて、顔が真っ赤に染まっていても、キース様はわたしを受け止めてくれる。昼休みを邪魔しても、こんなにズルいことをしている人間であっても、咎めることはない。


「好きだよ、ハナ」


 そう言ってキース様は綺麗に、穏やかに笑ってくれた。だけどその瞬間、わたしの心がズキッと音を立てて痛む。その瞳に映っているのはわたしなのに、わたしのはずなのに、キース様は何だか別の場所を見ている気がした。